KOMATSUの挑戦者たち
そのチャレンジが不可能を可能にする
第1章こんなはずではなかった。
「しまった!」
アジャスターチェーンの開発に関わった全員が、冷間鍛造で初めてできあがった部品を見て顔を見合わせた。メンバーは冷間鍛造の匠こと中村相談役、35年以上の生産技術の経験を持つ内藤、15年選手の竹山、そして営業の西村。異形部品とはいえ、さほど複雑に見えないターゲット形状。型を作って既存のアルミ材料をポンと打てば、簡単にできあがると誰もが思っていた。
ところができない。ポンと打ってできあがるのは、クラックやシワが入った不良ばかり。アジャスターチェーンは外観部品で冷鍛肌がそのまま組みつけられるため、クラックやシワが入っては、そもそも話が始まらない。
切削で作っていた部品を冷間鍛造に置き換える。これによって様々なメリットが顧客企業にもたらされる。
たとえば材料の歩留まりが上がり、加工スピードが1ケタ上がるために大幅なコストダウンが見込める。
あるいは材料を圧縮するので部品強度が増す。はたまた冷鍛肌の美しさによってオートバイ全体の外観
の付加価値が向上する。
顧客企業にとってみれば願ってもない提案。営業の西村にしてみても小松工業の信頼を厚くする、また
とない機会となるはずだった。ところが初めてできあがってきた部品を見て西村、蒼くなった。
この仕上がりでは客先に足を運べない・・・。